Interview
約34年前に老舗バッグメーカーに入社して以来、バッグ業界一筋でモノ作りを続けるフリーランス・デザイナー。
ヴィンテージの作りから、現代のコレクションブランドのデザインまで幅広い分野で研究を続け、トレンドを取り入れつつもユーザーのライフスタイルを引き出すバッグを提案する。
Q.キーファーノイには一貫したコンセプトはありますか?
A. 向井さん(以下向井):「私がキーファーノイに携わるようになったのは約12年前。ブランドがスタートして、2〜3年目の頃になります。その頃に自分が開発しようと決めたのは、メンズバッグ売り場の隙間を狙う商材。当時のメンズ売り場はあらゆる層に向けたバッグが展開されていて、すでに飽和状態だったんです。
とは言っても、当時はメンズバッグっていうとダークカラーのバッグが当たり前。だからまず考えたのは、メンズバッグの中でカラー展開をすること。また、デザイン的にユニセックス的な切り口の商品をメンズバッグで展開すること。女性でも持てるような柔らかい雰囲気のビジネスバッグですね。そこで発表したコンセプトがいまもブランドのベースになっています。
Q. そのコンセプトは向井さんが決めたんですか?
A. 向井:社内で話し合いながらコンセプトを決めて、物に落とし込むデザインを担当したのが私になります。当時はこんなカラフルなカバンはなかったんですよ。グローバルブランドもメンズバッグではダークトーンが当たり前の時代なので、そこと戦わなければいけなかった。だから素材にもこだわって、イタリアのタンナーのフルベジタブルタンニンなめしのヌメ革をハンドルなどの部材に使用しています。それによって、独特な発色を表現できたり、使い込んだ先の経年変化、馴染みやすさを実現できるんです。
Q. 確かに今でもカラーバリエーションの多さはブランドの強みの一つですよね。
A. 向井:そうですね。ボディが同じ色でも部材の色が違えば全くべつの雰囲気になるので、同じシリーズでいくつも買ってくれる人もいるんですよ。型押しや迷彩など、一見ビジネスバッグでは使わなそうなものも積極的に作っています。世界のコレクションで多く出た色なんかも参考にしながら、トレンドとして取り入れてみたり、あえてこの色はないなっていうのに挑戦してみたり。ファッションとビジネス、常にその両方の軸は意識しています。
Q.ジェンダーレスなデザインはどんなところで表現しているのですか?
A. 向井:一番わかりやすいのはデビュー当時からやっている手編みのハンドルです。当時はこういう装飾があるバッグをビジネスに使うこと自体が少し女性的な要素だったんですよ。また、シルエットもあえて丸みのあるパターンを採用することで少し柔らかい雰囲気を演出できるんです。こう言う味付けが女性目線から見て、彼氏とか旦那さんにオススメしやすいという声も聞いています。
また、手編みのハンドルは私が一番こだわったパーツでもあるんです。私は、レザーバッグはハンドルが顔だと私は思っています。このハンドルは5年間くらい研究を重ねてようやくできる工場と出会えた。ハンドルはカバンと自分をつなぐ唯一のパーツなので、ヌメ革を使用するのは馴染みやすさや経年変化も考えてのことなんです。手で持つ部分は、どうしても汗をかくのでヌメ革の方が馴染みやすいし、ヌメ革って半製品って言われるくらい、ユーザーが使い込むうちに馴染んできて完成するものなんですよ。
Q.ジェンダーレスなデザインは当時の市場ですぐに受け入れられましたか?
A. 向井:それは地道な販売努力があってこそですが、そもそもキーファーノイは、隣の百貨店とは違うものを置きたいっていう、新しいものを受け入れる体制ができているバイヤーさんが先に目をつけてくれた。だから意外と自然に受け入れてもらえた気はしますね
Q.キーファーノイのバッグを愛用してくれるターゲットの具体的なイメージをお聞かせ下さい。
A. 向井:オンとオフで使えるバッグっていうテーマがまず念頭にあって、イメージするターゲットは仕事も遊びも盛んな行動力のある男性です。機能とファッションが両立しているバッグをイメージしているので、年齢で切るというよりは、感性の高さでターゲットを考えています。カバンを持つことによって、その人の色気を引き出せるような、カバンをきっかけに他のことも気にしようかなと思えるような、そんな存在でありたいですね。
例えば、ダークのスーツを着ていても自分の個性を出したい人は、この赤いバッグを持ったら少しいつもとは違った雰囲気に見える。で、そういう人はさらに、靴にもこだわるだろうし、時計にもこだわるだろうし、そういうきっかけになりたいという思いもありますね。
バッグはほとんどの人は必然的に持つものだと思うのですが、その上でツールであることに加えてもう一個上の意識をもたせたい、というニュアンスですかね。機能ばかりを謳うのではなく、もっとデザインや色、感性に訴えかけるバッグでありたい。
Q. オンとオフで使えるためのデザイン的なこだわりを教えてください。
A. 向井:例えば色もそうですが、メンズバッグは芯材をしっかり入れてカチッとさせたものが多いんです。キーファーノイのアイテムももちろん、芯材は入っているんですが、シルエットが固くなりすぎないよう意識しています。芯材がないと、雰囲気的にビジネスに合わないし、長く使えなくなってしまう。だから、そのバランスや芯材の入れ方にはかなり気をつかっています。
Q. シリーズはどう分かれていますか?
A. 向井:バッグを持つシーンや素材使いで分けているものが多いですね。例えばビジネスシーンをメインに考えているアイテムは特殊なカラーを使いながらも、表面は派手になりすぎないデザインに落とし込んだり。出張が多い人をイメージしたモデルでは例えば一泊二日くらいの容量があって、PCスリーブがあるものや、キャリーバッグの持ち手に挿して携帯できるものなんかもあるんです。使う人のライフスタイルに合わせて選んでもらえたら嬉しいですね。
Q.では最後に、これからのキーファーノイに対する向井さんの展望や思いを聞かせてください。
A.向井:バッグをはじめとしてファッション業界は絶え間なく変化し続けています。今後もさらにバッグを持つシーンや形状の変化は考えられますが、常にブランドの立ち位置を見据えながら、お客様の感性に響く「情緒的価値のある製品」をお届けしたいと思っています。